中小企業のランサムウェア対策は、入口(VPN機器などインターネットに露出した機器)、権限、バックアップ、初動の順に固めるのが、警察庁の最新の統計から見て筋の通った優先順位だとHVLは考えています。警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年9月)では、被害組織へのアンケート結果によると侵入経路はVPN機器が約5割を占め、被害企業の約6割が中小企業でした。
もう一つ、見落とされやすいのが「VPN機器やサーバーの更新を誰が担当しているか」です。社内に担当者がいない会社では、機器やシステムを入れた会社・保守会社に任せたつもりでいて、契約上は誰の担当にもなっていないことがあるとHVLは見ています。
この記事では、システム開発・保守を受託する立場から、対策の順番に加えて保守契約で決めておく項目も整理します。統計と公的資料の内容は、2026年10月30日時点の公開情報です。
ランサムウェアとは、端末等に保存されているデータを暗号化して使用できない状態にした上で、そのデータを復号する対価(金銭又は暗号資産)を要求する不正プログラムです(警察庁「ランサムウェア被害防止対策」)。
いまの被害は、データが使えなくなるだけでは終わりません。警察庁の説明では、データを盗んだうえで公開すると脅して対価を求める二重恐喝が、被害の多くを占めています。
暗号化をせずにデータを盗んで対価を求める「ノーウェアランサム」という手口の被害も確認されています。バックアップから戻せても、情報が流出する問題は残るということです。
RaaS(Ransomware as a Service)とは、ランサムウェアの開発・運営を行うグループが、攻撃の実行者に攻撃に必要な環境を提供する仕組みです。この分業によって、高度な技術的専門知識を持たない者でも攻撃を実行できるようになり、攻撃者の裾野が広がっているとされています。
令和8年上半期のランサムウェア被害報告は123件で、統計を取り始めた令和2年下半期以降、半期の件数として最多でした。主な記載は次の表のとおりです。
| 項目 | 令和8年上半期の記載 |
|---|---|
| 被害報告件数 | 123件。統計を取り始めた令和2年下半期以降、半期の件数として最多 |
| 侵入経路 | 被害組織へのアンケート結果によると、VPN機器が約5割 |
| 被害企業の規模 | 前年と同様に中小企業が約6割 |
| 業種 | 製造業が約3割。続いて卸売・小売業、情報通信業、不動産、物品賃貸業 |
| 復旧費用 | 復旧に総額1,000万円以上を要した組織が全体の6割 |
| 復旧期間 | 1か月未満で復旧した組織は全体の5割弱 |
出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年9月、警察庁サイバー警察局)
HVLは、この表から二つのことを読み取っています。一つは、会社の規模が小さいことは対策を後回しにする理由にならないことです。もう一つは、被害に遭うと費用と期間の両面で事業に響くため、侵入を防ぐ対策と戻す備えの両方が要ることです。
警察庁によると、近年の主な手口は、インターネットに露出した箇所から遠隔操作で社内ネットワークへ入るものです。標的型攻撃メール等の添付ファイルによる感染は少なくなっているとされています。
侵入の足がかりになるのは、未修正のぜい弱性や漏えいした認証情報等です。侵入後は次の流れで攻撃が進みます。
この流れを見ると、入口だけでなく、権限、検知、バックアップのそれぞれに攻撃を止める機会があると分かります。
侵入経路の割合は、被害に遭った組織へのアンケートの結果です。調査の対象や期間が違う資料では、侵入経路の割合が異なる数字で示されることがあります。他の資料と比べるときは、対象と時点を確かめてください。
なお、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日公開)でも、組織編の1位は「ランサム攻撃による被害」で、11年連続11回目の選出です。他の脅威も含めて全体を見たい場合は、情報セキュリティ10大脅威 2026を中小企業の対策に落とし込む記事が参考になります。
HVLは、侵入の主要な経路から順に塞ぎ、そのうえで被害を広げない備えと戻す備えを整える順番を勧めます。
すべてを同時に進められない場合は、次の問いに上から答え、最初に「いいえ」となった項目から始めることをHVLは勧めます。
入口を優先するのは、メール対策や社員教育が不要という意味ではありません。警察庁のページも、不審なメールへの警戒と、全ての従業員へのセキュリティ教育を対策に挙げています。不審メールの対応訓練やインシデント訓練も有効だとしています。
HVLは、機器の更新と並行して、添付ファイルやリンクを開く前に送信元へ確かめる習慣を社内に広げることを勧めます。生成AIなどを業務で使っている会社は、AIをめぐる攻撃・防御と社内AIの守り方を整理した記事もあわせて確認してください。
入口の対策の要点は、社外から社内に入る経路をすべて把握し、更新と認証を固めることです。VPN(Virtual Private Network)機器とは、社外から社内ネットワークへ接続するために使う機器で、インターネットに露出しているため攻撃の入口になりやすいものです。
警察庁は、主要な侵入経路であるVPN機器には速やかな対応が必要だとしています(警察庁「ランサムウェア被害防止対策」)。VPN機器やOS等の更新ファイルやセキュリティパッチが公開されたら、速やかに適用してぜい弱性を残さないことが基本です。
認証情報については、次の点を見直します。多要素認証とは、パスワードに加えて別の要素でも本人を確かめる認証の方法です。
HVLはシステム開発・保守を受託する立場から、機器とシステムの更新の担当を保守契約で決めておくことを勧めます。チェックリストの「誰が適用するか」に答えられない会社は、まず次の項目を確認してください。
| 決める項目 | 確認すること(HVLの例) |
|---|---|
| 対象の範囲 | VPN機器、ルーター、サーバー、OS、ミドルウェア、業務システム、Webサイトのうち、どれが保守の対象か |
| 更新の判断と適用 | 更新が出たことを誰が把握し、誰が適用の要否を判断し、誰が適用するか |
| 緊急時の扱い | 緊急の更新が出たとき、通常の作業日程を待たずに適用するか、その連絡方法 |
| 費用 | 定例の更新と緊急の更新の費用を、保守料金に含むか、別に見積もるか |
| バックアップ | 取得、保管、復元確認をどちらが行うか |
| 事故時の連絡 | 感染や不審な挙動に気づいたとき、誰に、どの手段で連絡するか |
| アカウント | 保守のために発行しているアカウントと権限、担当者の交代時の扱い |
委託先の体制まで確かめたい場合は、委託先のセキュリティ対策チェック項目を開発・保守の段階別にまとめた記事も使えます。
HVLが開発・保守の立場からつまずきやすいと考えている点と、その対処は次のとおりです。
入口を破られた場合に備えて、権限を絞って被害の広がりを抑え、侵入の兆候に気づける状態を作ります。
警察庁のページは、権限とアクセス範囲を必要最小限にすることが、アカウント侵害時の被害拡大防止に繋がるとしています。特に管理者権限は、付与する対象を絞って厳格に管理する必要があります。
インターネットに公開しているサーバや機器についても、乗っ取られた場合に備えてアクセス可能な範囲を限定することが求められています。
警察庁は、侵入やその前兆の検知と対処には、ウイルス対策ソフトやEDR製品、ネットワーク監視製品等の導入が有効だとしています。EDR(Endpoint Detection and Response)製品とは、端末の不審な挙動を検知して対処するための製品の種類です。いずれも導入するだけでなく、最新の状態に保ち適切に運用することが重要とされています。
HVLは、製品を入れても、通知を誰が見るのかが決まっていなければ働かないと考えています。製品を選ぶ前に、通知を受けて動く人と手順を決めることが先です。
あわせて、ネットワーク機器や端末のログを日頃から取得しておくことも警察庁は推奨しています。ログは、被害に遭ったときに侵入経路や侵害範囲を調べる手がかりになるためです。
バックアップは、取っているだけでは足りず、暗号化されない場所に保管し、実際に戻せることまで確かめて初めて備えになります。
IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(2026年3月27日公開)は、情報セキュリティ6か条に「バックアップを取ろう!」を加えました。ガイドラインのコラムは、バックアップを次の3段階で整理しています。
6か条の全体と進め方は、IPA第4.0版の6か条をもとに何から始めるかを解説した記事にまとめています。
警察庁のページによると、バックアップデータまで暗号化される事例が多数確認されています。そのため、なるべくこまめに取得し、ネットワークから切り離してオフラインで保存するなど、データの重要性に応じた備えが推奨されています。日頃の運用面の課題で、バックアップからの復旧がうまくいかない事例も発生しています。
感染を疑ったら、ネットワークから隔離し、電源は落とさず、警察に通報・相談します。次の手順は警察庁のページに沿った初動です。
HVLは、これに加えて、開発・保守を委託している会社と取引先へ連絡することも手順に入れておくことを勧めます。連絡先は、社内のシステムが使えなくても確認できる形で残しておきます。
金銭の支払いについて、警察は「犯罪グループ等の活動資金となることが懸念される」「暗号化されたデータの復号が保証されるわけではない」旨を被害者に説明しています。支払いを検討する前に、まず警察に通報・相談してください。
通報に不安がある場合に備えて、警察庁のページのよくある質問から要点をまとめます。
一部のランサムウェアについては「No More Ransom」プロジェクトのウェブサイトで復号ツールが公開されていますが、対応していないランサムウェアやバージョンがあり、全てのファイルを復号できるとは限りません。警察庁が開発した復号ツールもあるため、被害時に警察へ相談する際に確かめてください。
警察庁は、サイバー攻撃を想定した業務継続計画(BCP)を事前に準備し、対処の流れや警察等の連絡先を整理しておくことを推奨しています。BCPとは、被害を受けても重要な業務を続けるための計画です。
計画は作るだけでは動きません。HVLは、誰に知らせるのか、どこへ通報するのか、バックアップから実際に戻せるのかを、年に1回は実際に試しておくことを勧めます。
情報システムの専任担当者がいない会社でも、社内の窓口役を決めれば、技術的な作業は保守会社と分担して進められるとHVLは考えています。進める順番の例は次のとおりです。
窓口役に技術の知識は必須ではありません。大切なのは、機器の一覧と契約の内容を社内で把握し、更新が止まっていないかを保守会社に尋ねられる状態にしておくことです。
警察庁の令和8年上半期の統計では、被害組織へのアンケート結果によると侵入経路はVPN機器が約5割です。そのため、VPN機器などインターネットに露出した機器の一覧化と更新から始めることをHVLは勧めます。
警察庁の令和8年上半期の統計では、被害企業の約6割が中小企業でした。会社の規模にかかわらず、対策が必要です。
バックアップも暗号化される事例が多数確認されており、それだけでは十分ではありません。ネットワークから切り離して保管し、復元できるか確かめておく必要があります。
警察は、犯罪グループ等の活動資金となることが懸念されること、復号が保証されるわけではないことを被害者に説明しています。まず警察に通報・相談してください。
機器を導入した会社や保守会社に任せている場合は、更新の判断と適用を誰が行うかを保守契約で決めておくことが必要です。決まっていなければ、担当をはっきりさせることから始めてください。
警察庁の令和8年上半期の統計では、ランサムウェアの被害報告は123件と半期で最多で、侵入経路はVPN機器が約5割、被害企業の約6割が中小企業でした。
HVLは、中小企業のランサムウェア対策を、入口の機器の一覧化と更新、認証と権限、オフラインのバックアップと復元確認、初動の手順の順に固めることを勧めます。そのうえで、機器とシステムの更新を誰が担当するかを保守契約で決めておくことが、開発・保守の現場で大切だとHVLは考えています。
VPN機器やサーバー、業務システムの更新・バックアップを誰が担当するか、保守契約の範囲を整理したい場合は、HVLのシステム開発・保守(システムインテグレーション)にご相談ください。開発・保守の進め方をまとめた資料の請求や、お問い合わせも受け付けています。