中小企業のセキュリティ対策を何から始めるかの答えは、IPA(情報処理推進機構)の中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインにある情報セキュリティ6か条です。2026年3月27日に公開された第4.0版で、これまでの情報セキュリティ5か条に「バックアップを取ろう!」が加わり、6か条になりました。
結論から言うと、最初の1か月でやることは2つです。6か条が社内でできているかを確かめることと、対策を進める担当者を決めることです。そのうえで、5分でできる!情報セキュリティ自社診断で弱いところを把握し、情報セキュリティ基本方針を定める、という順で進めます。
以下は、2026年10月30日時点のIPA・警察庁の公開資料と、システム開発・保守を受託する立場からのHVLの見解に基づく内容です。情報システムの専任担当者がいない会社の経営者・総務担当者が、社内の作業に置き換えられる形で整理します。
中小企業の対策が問われる理由は、ランサムウェアの被害が中小企業に及んでいることと、委託先まで含めた対策が論点になっていることです。公開資料からは、次の3つの動きが読み取れます。
HVLは、自社が直接狙われる場合だけでなく、取引先から対策の状況を聞かれる場面が増えていると考えています。何をしているかを説明できる状態にしておくことが、取引の面でも必要になってきているという見方です。
HVLの考える「説明できる状態」とは、次の問いに社内の誰かがすぐ答えられることです。
第4.0版の変更点は、バックアップの追加、SCS評価制度の考え方の反映、人材の確保・育成に関する付録の追加です。
中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインとは、情報セキュリティ対策に取り組む際に経営者が認識し実施すべき指針と、社内で対策を実践する際の手順や手法をまとめたIPAの資料です。経営者編と実践編からなり、個人事業主、小規模事業者を含む中小企業の利用を想定しています。
IPAのガイドラインのページ(最終更新2026年9月30日)が挙げる改訂の主なポイントは、次の3つです。
本編は全70ページです。HVLは、本編を最初から通読するより、6か条と自社診断から手を付け、必要になった付録を開く使い方が進めやすいと考えています。
付録はサンプルや手引きが中心で、自社の文書を一から作らずに済む点が実務上の利点です。下の表の「使う場面」はHVLの整理で、ガイドラインの規定ではありません。
| 付録 | 使う場面 |
|---|---|
| 付録1 中小企業のためのセキュリティ人材の確保・育成の実践ガイドブック | 担当者の確保や育成を考えるとき |
| 付録2 情報セキュリティ基本方針(サンプル) | STEP2で基本方針を定めるとき |
| 付録3 5分でできる!情報セキュリティ自社診断 | 自社の弱いところを把握するとき |
| 付録4 情報セキュリティハンドブック(ひな形) | 従業員向けの周知資料を作るとき |
| 付録5 情報セキュリティ関連規程(サンプル) | 社内の規程を整えるとき |
| 付録6 資産管理台帳(サンプル) | 守る対象を一覧にするとき |
| 付録7 中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き | クラウドサービスの使い方を見直すとき |
| 付録8 中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き | 被害が疑われるときの動きを決めておくとき |
2026年9月30日時点のガイドラインのページには、情報セキュリティ6か条(解説編)、5分でできる!情報セキュリティ自社診断(解説編)、自社診断のExcel版も掲載されています。
経営者の役割は、対策を現場任せにせず、方針・予算・担当者を決めて実行を指示することです。ガイドライン第4.0版の経営者編は、この役割を3原則と重要7項目で示しています。
取組6について、ガイドラインは次のことを求めています。業務の一部を外部に委託する場合は、委託先でも少なくとも自社と同等の対策が行われるようにします。あわせて、契約書に情報セキュリティに関する委託先の責任や実施すべき対策を明記し、合意する必要があります。
HVLは、外部に開発や保守を任せている会社ほど、この取組6を早めに確かめる必要があると考えています。受託する側から見ても、範囲が決まっていない作業は誰の手にも渡らないまま残りやすいためです。
6か条は、ガイドラインで「企業の規模に関わらず、必ず実行すべき重要な対策」とされています。次の表は、担当者のいない会社でも回せるように、HVLが6か条を作業へ置き換えた例です。
「担当の目安」と「頻度の目安」はHVLの目安であり、ガイドラインの規定ではありません。
| 6か条 | 自社でやること(HVLの例) | 担当の目安 | 頻度の目安 |
|---|---|---|---|
| 1. OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう! | パソコン・スマートフォン・ルーターやVPN機器の更新を確認する。外部に任せている業務システムやWebサイトは、更新の担当を契約で確認する | 総務/外部の保守会社 | 月1回の確認 |
| 2. ウイルス対策ソフトを導入しよう! | 全端末に導入されているか、定義ファイルが更新されているかを台帳で確認する | 総務 | 月1回の確認 |
| 3. パスワードを強化しよう! | 「長く」「複雑に」「使い回さない」。使える場合は多要素認証を有効にする。退職者・異動者のアカウントを止める | 総務/各部門 | 入退社のたび |
| 4. 共有設定を見直そう! | クラウドストレージ、共有フォルダ、ネットワーク接続の複合機の公開範囲を確認する | 各部門/総務 | 3か月に1回 |
| 5. バックアップを取ろう! | 対象・取得方法・保管場所・世代・保管期間を決め、復元できることを確認する | 総務/外部の保守会社 | 取得は業務に合わせて、復元確認は3か月に1回 |
| 6. 脅威や攻撃の手口を知ろう! | IPA・警察庁の注意喚起を共有し、取引先を装うメールや偽サイトの手口を社内で知らせる | 経営者/総務 | 月1回 |
多要素認証は、パスワードに加えて別の要素でも本人を確かめる仕組みです。
第4.0版で加わったバックアップについて、ガイドラインのコラムは3段階で整理しています。
HVLは、この3段階のうち、正しく復旧できることの確認が特に抜けやすいと考えています。取得が続いていても、戻せるかどうかは試すまで分からないためです。
従業員への周知は、6か条の最後にある「脅威や攻撃の手口を知ろう!」を入口にできます。情報セキュリティ10大脅威 2026の組織編には、ビジネスメール詐欺や機密情報を狙った標的型攻撃も挙がっています。HVLは、こうした手口を社内で知らせる場面に、付録4の情報セキュリティハンドブック(ひな形)を土台として使えると考えています。
6か条の次は、自社診断で弱いところを把握し、基本方針を定め、SECURITY ACTIONの宣言を検討する段階です。
ガイドライン第4.0版の実践編は、4つのSTEPで構成されています。
| STEP | 取り組みの目安 |
|---|---|
| STEP1 | 情報セキュリティ6か条を活用し、必要最低限の対策から始める |
| STEP2 | 5分でできる!情報セキュリティ自社診断で自社の弱みを把握し、基本的対策を決め、情報セキュリティ基本方針を作成する |
| STEP3 | 必要に応じて外部専門家を交え、体制を整備し、基本的な組織的対策や技術的な防御対策を実施する |
| STEP4 | 必要に応じて外部専門家を交えてリスク分析を行い、技術的な対策を強化して包括的な対策を実施する |
HVLは、専任の担当者がいない会社では、まずSTEP2までを到達点に置くと進めやすいと考えています。
自社診断は、25項目の設問に答える形式です。採点と集計の方法は次のとおりです。
HVLは、「わからない」と答えた項目から確かめることを勧めています。第4.0版で追加された「ウェブサイトを安全に運用する」のような項目は、外部に任せていると社内だけでは答えられないことがあります。その場合は、委託先に状況を聞くことがそのまま対策の第一歩になります。
SECURITY ACTIONとは、中小企業自らが情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度です。IPAがお墨付きを与える制度ではなく、自己宣言の制度です。取り組み目標に応じて、次の2つがあります。
どちらを宣言するかは、IPAの案内に沿って次の基準で判断できます。
ロゴマークは無料で使え、補助金など公的支援制度の要件になっている場合があります。対外的に書くときは、IPAが適切な例として示す「一つ星(二つ星)を宣言しました」という表現を使います。なお、SECURITY ACTIONの一つ星・二つ星と、次に説明するSCS評価制度の★3・★4は別の制度です。
SCS評価制度の★3は、6か条と自社診断・基本方針を終えた先で検討する段階だとHVLは考えています。
SCS評価制度とは、経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室の監督のもとでIPAが運営する、サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策の評価制度です。ガイドライン第4.0版は、この制度の基本的な考え方に沿った内容になっています。
| 項目 | ★3 | ★4 |
|---|---|---|
| 評価の形 | 専門家確認付き自己評価 | 第三者評価 |
| 要求項目 | 計26件 | 計43件 |
| 評価の内容 | 自己評価の結果に係る文書の確認 | 文書確認に加え、実地審査および技術検証(脆弱性検査) |
上位の段階はそれ以下の段階で求められる事項を包括するため、★3を事前に取得していなければ★4を取得できないという関係にはなりません。★3と★4の違いや準備の手順は、SCS評価制度の★3・★4の違いと中小企業の準備手順で詳しく説明しています。
HVLは、★3を目指すかどうかを次の基準で判断すればよいと考えています。
★3を目指すかどうかは、取引先の要請が見えてから判断しても、STEP2までの準備は無駄になりません。
情報システムの専任担当者がいない会社でも、役割を分ければ対策は回せるとHVLは考えています。HVLが回りやすいと考える分担は次のとおりです。
HVLがシステム開発・保守を受託する立場から見て、つまずきやすいと考えている点と対処は次のとおりです。
| つまずきやすい点 | 対処 |
|---|---|
| 外部に任せているシステムの更新を、社内も委託先も「相手がやっている」と思っている | 更新の担当と範囲を委託先に確かめ、契約に書いてあるかを確認する |
| 退職者や過去の委託先のアカウントが残っている | アカウントの台帳を作り、入退社と委託の終了のたびに止める |
| バックアップは取っているが、戻せるかを一度も確かめていない | 復元を試す担当を決め、3か月に1回の確認を予定に入れる |
| 仕様書や構成の資料がなく、何がどこで動いているか誰も説明できない | 今動いているものを洗い出し、構成の資料を作り直す |
仕様書や構成の資料がない場合の進め方は、仕様書がないAIシステムの保守・引き継ぎと解析の進め方で扱っています。
HVLは、外部に任せているシステムがある会社は、次の項目を委託先に確かめておくことが大切だと考えています。
ガイドラインは、国の支援策としてサイバーセキュリティお助け隊サービスとデジタル化・AI導入補助金を紹介しています。被害が疑われるときは、警察(サイバー犯罪相談窓口)や、IPAの情報セキュリティ安心相談窓口に相談できます。
業務で生成AIを使っている会社は、6か条とあわせて、入力してよい情報の範囲を決めておく必要があります。
情報セキュリティ10大脅威 2026の組織編で、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位に初めて選ばれました。AIに関する攻撃と防御の全体像は、AIとサイバーセキュリティの攻撃・防御・社内AIの守り方で整理しています。
HVLは、最初のルールとして、取引先から預かった情報や個人情報を入力してよいかを決めるところから始めることを勧めています。入力・出力・運用のリスクと社内ルールの作り方は、生成AIの情報漏洩対策と社内ルールの進め方で扱っています。
最初の1か月は、次の項目を順に確かめれば、STEP1からSTEP2の入口まで進められます。項目はHVLの整理です。
IPAのガイドライン第4.0版の情報セキュリティ6か条から始め、担当者を決めます。次に、自社診断の25項目で弱いところを把握します。
2026年3月27日公開の第4.0版で、情報セキュリティ5か条に「バックアップを取ろう!」が加わり、6か条になりました。
一つ星は、情報セキュリティ6か条に取り組む宣言です。二つ星は、自社診断で状況を把握し、情報セキュリティ基本方針を定めて外部に公開したうえでの宣言です。
経営者・総務・各部門・外部の保守会社で役割を分ければ、STEP1・STEP2は進められるとHVLは考えています。
2026年10月28日時点のIPAの公開情報では、★3・★4は2027年3月の受付開始に向けて整備中です。HVLは、まず6か条と自社診断・基本方針を終えることが先だと考えています。
中小企業のセキュリティ対策は、IPAガイドライン第4.0版の情報セキュリティ6か条から始め、自社診断と基本方針でSTEP2まで進めるのが基本の順序です。外部に任せているシステムがある場合は、更新とバックアップを誰が担当するかを契約で確かめておくことが大切だと、HVLは開発・保守の現場の立場から考えています。
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